2016-01-01から1年間の記事一覧

70年ぶりの出征風景

「駆けつけ警護」とは、例えば国連職員が武装勢力に襲われた時に自衛隊が武力を以て助ける、ということだが、その時自衛隊は「相手への反撃」という形でしか武力行使はできない。つまり、高倉健のやくざ映画やアントニオ猪木のプロレスよろしく「悪者」から…

おばあちゃんの切符

母方の実家が栃木県の小山市にあり、自分たち兄弟は、小学生の頃、夏休みのたびにそこへ泊まりがけで遊びにいっていた。 ある年の夏休み、つきそいで来ていた母が一足さきに横浜の「金沢文庫」にある自宅へ帰り、その数日のちに、三歳違いの兄と自分は、子ど…

2016年11月3日のこと

通りすがりにイタ車の放列 製鉄会社が工場萌えを採用しても、鉄道会社が鉄道オタクを採用してもいいと思うが、幼稚園は幼児マニアを採用するべきではないと思うし、自衛隊はこういうノリでの募集はしない方がいいと思う。 ヲタクはアイドルが好きだが、アイ…

或る「感じ」について

数日前、自分はあるファストフード店で、イヤホンでジョン・レノンを聴きながらコーヒーを飲んでいた。ちなみに自分はジョン・レノンのファンでも、とくにコーヒーが好きなわけでもない。たまたまそういう状況だったというだけである。少し離れたところに3…

スタンドプレーの末路

小池百合子都知事は、当初11月に予定していた豊洲移転を延期する理由を、「9回予定している地下水モニタリングの最終回が移転後の来年1月になっているから」としていた。 彼女は「移転延期の大英断」で都庁官僚に正義の鉄槌を下したあと、来年1月の最終回の…

歴史を知るとは

アルベール・カミュというフランスの作家が書いた「異邦人」という小説の主人公ムルソーは、「太陽がまぶしかったから」という理由でアラブ人を殺害する。この「動機」は裁判において当然ながら何らの情状も酌量されず、彼は死刑判決を下される。殺人の動機…

情報洪水で進む「無知」

先日、新聞で以下のような一文を読んだ。「かつてのテロは大義をもって専制的な権力者の命を狙うものだった。だが現代のテロは社会に恐怖を与えるための無差別大量殺人で、テロの目的自体が堕落した」 まるでテロには「崇高なテロ」と「堕落したテロ」がある…

心の無い神

人間の能力は心技体の掛け算で算出される。人工知能は不動心と体力で圧倒的なアドバンテージがありハナから対峙する人間は分が悪い。人工知能と人間のボードゲームは、今や機械に人間がいいように嬲られるSMショーの様相を呈しておりもはやその手の趣味の人…

「死亡率100%を生きる」 木原武一 著

「死亡率100%を生きる」 木原武一 著 著者の木原武一は、一般にはあまり名を知られていないかもしれないが、自分はその教養の扱い方やアイデアの発想力、文章の風韻が好きで、本屋や図書館でその著作を見つけるたびに、読むことにしている作家である。 この…

「コンビニ人間」を読む。

芥川賞受賞作「コンビニ人間」を読む。 コンビニ店員である主人公の女性は、小学生の時に、拾った鳥の死骸をヤキトリにして食べようと言ったり、ケンカの仲裁をするために男の子の後頭部をスコップで殴りつけたり、ヒステリーを起こした担任の女教師のスカー…

江藤淳「妻と私」

故江藤淳に、「妻と私」という本があり、久しぶりに再読した。これは著者の長い執筆生活で、もっとも売れた本らしい。売れゆきがよかった本だから「いい本」とは言えないが、いい本の判定指標として「売れ行き」という一項目はあっていいと思う。 「妻と私」…

横浜美術館「メアリー・カサット展」

横浜美術館で開催中の「メアリー・カサット展」にいく。 美術史上、カサットは印象派に分類されることもあるようだが、個人的にはどうもなじまない。しいて言えば彼女は、古代ギリシャ彫刻に出自を持ち、ルネッサンスのラファエロやミケランジェロを経て、近…

日本会議という餌食

日本会議が本物の憂国団体ならば、「世界文明の旗手アメリカ様に世界の果てまでついていきます」より、「日本に原爆落とし世界中に戦争をばら撒く野蛮人アメリカ出ていけ」が主張になるはずだが、そんなことはおくびにも出さないのはどういうことか。 日本会…

東京都知事選前夜

明治維新まで、日本の庶民は領主が誰になろうとさして関心はなかった。世の中が「戦国時代」であっても、それは殺し合いをしている武士の世界だけの話で、農民は、ただ、春に田植えをして、秋に収穫をして、お祭りをした後に冬ごもりのしたくをするループの…

再び思想の時代へ

敗戦直後、坂口安吾の「堕落論」という文章が評判になった。彼がこの中で言いたかったことは、「人間はえらそうにしているが実はたいしたことはない(堕落した存在だ)」ということだが、これは明治期の自然主義文学と通底する気分である。 自然主義文学とは…

役に立とうが立つまいが

知性の衣をまとおうが、あからさまな暴論だろうが、いま世の中には「働けなくなった老人は社会のお荷物だから早く死ね」的な言いざまが吹き荒れている。これは他者に対する惻隠の情がないという意味で「冷酷」であり、いずれ自分もそうなるということに思考…

自分とのつきあい方

年齢を重ねて覚えるのは、ヒトとのつきあい方よりも、自分とのつきあい方だ。ヒトとのつきあい方は外側から教えてくれるが、自分とのつきあい方は内側から見つけ出すほかない。そして、自分の心体は途切れなく変わり続けるものだから、つきあい方も歩調を合…

無邪気な変態

現日本国憲法が国家権力を縛る立場であるのに比して、自民党の憲法草案は国民を縛ることを主眼にしているのだが、とても不思議なのは、こういう憲法草案を作(りたが)る自民党の誰かは、自分たちは国家権力の側に永久に居続けられると無邪気に信じているき…

「死後」の世界

哲学でいう「独我論」とは、実在しているのは自分自身だけで、それ以外の他人やモノなどはすべて妄想だという考え方のことだ。 「そんな手前勝手な、自己中心的な話はあるものか、他者は妄想ではなく、確かに存在しているではないか」と、我々のコモンセンス…

鈍き刀

唄というのは、ものすごく上手い人がわざとすこし下手に歌っているぐらいが一番いいあんばいに聞こえるのではないだろうか。逆に、下手な人が実体以上に上手く聞かせようとすると、聞くに堪えないものになる。 絵とか文章もおそらく事情は同じで、上手い人が…

ユニーク性と真実性

人間の言説は、内容のユニークさと真実性に着目すると四つの種類に分けられる。 ①内容はユニークだが、真実ではないもの ②内容にユニークさは無いが、真実であるもの ③内容にユニークさはなく、真実でもないもの ④内容にユニークさがあり、真実でもあるもの …

文明的欠乏について

日経新聞に、以下のアンケート結果が載っているのをみた。こういう「現代の若い女性が結婚や仕事に対して抱える悩み」に関する記事や文章は、その分析レベルの高低を問わず、近ごろしばしば目にするが、そのたびに自分の頭の中には、同じような感慨が繰り返…

ビットコインに関する覚え書き

「ビットコイン」といえば、最近では日本にある取引所の社長の横領事件等もあり、どこかウサン臭いもの、というイメージがある。 発行主体も管理主体もなく、誰が発案したのかも謎につつまれ、現時点で利用したことがある日本人は約3万人、決済ができるのは…

紫煙という誤謬

たばこを喫わなくても短命だった人もいるし、たばこを喫っていても長生きした人もいる。長生きした人にたばこを喫わなかったら更に長生きした保証もないし、短命だった人がもしたばこを喫っていれば更に短命だったという証拠もない。人生80年時代と言われ…

「小説 世界が奏でる音楽」 保坂和志 (抜き書き)

小説 世界が奏でる音楽 保坂和志 約ひと月かけて、この本を読んだ。この本を読んでいる時間は、まるで寄せては返す波を、砂浜に座り込んで眺めつづけているような時間だった。同じようなことを繰り返し書いているのだが、その表現がそのたびに違うせいか、読…

セブン騒動における感情のもつれについて

日経MJに、さきごろセブン・アンド・アイホールディングスの会長を退任した鈴木敏文氏が、新体制の記者会見を開くことに反意を示しているという記事が載っていた。新体制は5月26日に予定している株主総会の決議をもって発足するのであって、その前に記者会見…

「トランプ大統領」は何をもたらすか

在日米軍は、冷戦中は共産主義への対抗武力として、冷戦終結後は、中東派兵を主とするアメリカの世界戦略の拠点として存在していたのであって、「日本の用心棒」だったわけではない。 このことは世界史的な常識であるが、多くのアメリカ国民は、アメリカ軍が…

千葉に吉田博展を見にいく 2016年5月1日

最寄駅の歩道橋の階段で、強い日差しの下、さして汚れているようにも見えない手すりを雑巾がけしている人を見る。どういう指示を受けて、どういうモチベーションで、この人はこの作業をしているのかが気になる。 駅のホームで、彼氏とおぼしき男性の横で盛大…

言葉の定義について

無神論者を標榜する人の言い分を聞くと、彼らが神を元素記号で表現できるような物質的実在だと定義していることに気づく。もちろん神をそんなものに定義づけてしまえば神なぞ存在するわけがなく、そんなことになると困るから、ユダヤ教やイスラム教は神のア…

奇跡のたたずまい

ブッダが死んだとき、ゾウも泣いた、シカも泣いたといわれる。ゾウやシカが泣くわけがないじゃないか、などと目くじらを立てる人もおるまいが、ゾウも泣いた、シカも泣いたと言い伝えずにははいられないほど、周囲の人々の喪失感は深かった、という事実は重…