鈍き刀

 唄というのは、ものすごく上手い人がわざとすこし下手に歌っているぐらいが一番いいあんばいに聞こえるのではないだろうか。逆に、下手な人が実体以上に上手く聞かせようとすると、聞くに堪えないものになる。

 絵とか文章もおそらく事情は同じで、上手い人がそのまま上手にかいたものは、どこか興ざめするものだ。徒然草に「よき細工は、少し鈍き刀をつかふといふ。妙觀が刀はいたく立たず」という一文があり、これは 「腕のいい細工師はわざとすこしナマクラな刀をつかう」という意味だが、それはおそらくこのあたりの機微を表現したものだと思う。

 誰が見ても上手い絵とか、誰が聴いても上手い唄とかがあるが、本当に価値あるものは、そういうものを超えた、あるいは外れた、さらにいえばわざと外したところにある。ちなみにこれは「下手な方が味があっていい」というような次元の話とは異なる。