2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

海 その愛

加山雄三は、二物も三物も持ち合わせてこの世に生まれてきた、一種の万能の天才だと思う。この人が数年前日経新聞で連載していた「私の履歴書」を読むと、若い頃から、沸騰する好奇心をバネに、鋭敏な頭脳と尖った才能を遺憾なく発揮してきたことがよく判る…

別れの予感

かつてカラオケというのは昨今のような気楽なものではなく、ある緊張感をもって挑むべき対象であり、酒の力を借りずには歌えたものではなかった。そもそも、人前で歌をうたうという行為には生理的欲求を公衆の面前で満たすのに似た恥ずかしさがあって、今の…

制服

この曲は、「赤いスイートピー」のB面として世に出たもので、松田聖子の並みいる大ヒット曲の陰に隠れた地味な存在ではあるが、根強い愛好者がいる(と聞いたことがある)。なにせ、松本隆作詞・松任谷由実(呉田軽穂)作曲だから、出来が悪いはずがない。高…

人生は穴掘りか

かつて、「徳川埋蔵金」などの地中深く隠された伝説のお宝を探す番組があった。綿密な(?)事前調査によって場所に当たりをつけてのち、ショベルカーやらブルドーザーやらを使って大穴を掘りまくるだけなのだが、結局、お宝は見つからなかった、というのが…

お客様は神様か

三波春夫の「お客様は神様です」という言葉の意味は、巷間ひろく理解されているように「観客席のお客様は、神様のように大切な存在です」ということでは実は無い。 かれは、あるテレビ番組で、こんなことを語っている。「僕が『お客様は神様でございます』と…

岳 〜みんなの山

自己の体験に深く根ざした畢生の名作をひとつ書き、そして消えていく作家というものがある。自分の知る範囲では、文学においては「戦艦大和ノ最期」を書いた吉田満、「銀の匙」を書いた中勘助がそれにあたる。もっとも吉田満はその体験と作品があまりにシリ…

議論

多くの人が集まって議論するとき、素晴らしい知恵が出てくるときと、愚論が百出するときがある。これには俎上に上げるテーマの質と、参加するメンバーの質という二つの要因が影響する。まず、テーマについて言うと、テーマには衆知を集めて議論すべきものと…

里の秋

これは、母と子どもが、秋が深まった里山で、太平洋戦争で南方に出征した父の生還を待っている歌である。このことは、三番まで聞いてようやくわかる仕組みになっている。 【三番】 さよならさよなら 椰子(ヤシ)の島 お舟にゆられて 帰られる ああ 父さんよ 御…

言葉にできない

自分は横浜の片田舎で育ったが、最寄駅の商店街に「小田薬局」という薬屋兼化粧品店があり、ここがオフコースの小田和正の実家であるということは地元では有名な話だった。だからなんだと思われてしまいそうだが、要はこの人には同郷という抜きがたい親しみ…

十七歳の地図

プロゴルファーの石川遼が登場したとき、天賦の才能とルックスの奇跡的な両立ぶりと、仕事に取り組む姿勢のひたむきさに「まるで尾崎豊のようだ」と思った。同じように若くして同世代から抜きんでて才能を輝かせた二人だが、尾崎が破滅し、遼くんが破滅しそ…

頭と手

ビートたけしの対談集を読んでいたら「医者というのは『頭』と『手』の両方の器用さが求められる希な職業だ」といっている箇所があった。 「頭」とは医学知識をインプットして臨床にアウトプットする頭脳のことをいい、「手」とは手術をするときにメスさばき…

ハイデガーと庄野潤三

哲学者の木田元は、満州に生まれ、海軍兵学校で終戦を迎え、戦後は闇米屋をしていた。そういった前半生の乱脈ぶりから、東北大学入学から始まる後半生の学究人生への転換は一見奇矯な印象も受けるが、乱脈的実生活から生じた普遍性的思想への希求という文脈…

滅びの予感

井上靖の「大洗の月」という短編は、なんとなく人生に絶望している男が月見に行くという話だが、その主人公は、その絶望感を「間歇的に自分に訪れる滅びの予感」と表現する。「滅びの予感」とはいい言葉だな、と思ったのは、ここ数年、自分が常日頃抱いてい…

くみとり便所の思い出

かなり以前の話になるが、北朝鮮政府が国民に対して一人当たり年間2トンの糞尿を国家に拠出するように義務づけているという報道を見聞きした覚えがある。 糞尿は言うまでもなく田畑の肥やしにするためである。肥溜めがそこかしこにあったかつての日本の里山…

運命

この曲を聞くたびに深く感動する。しかし、自分がいったい何に感動しているのかがさっぱりわからない。雄大さ、緻密さ、そんな言葉では形容できない、なにか圧倒的なものにとりこまれて、感動せざるをえないのだひょっとすると人間の心の底には、言葉もなく…