里の秋

 これは、母と子どもが、秋が深まった里山で、太平洋戦争で南方に出征した父の生還を待っている歌である。このことは、三番まで聞いてようやくわかる仕組みになっている。

【三番】
さよならさよなら 椰子(ヤシ)の島
お舟にゆられて 帰られる
ああ 父さんよ 御無事でと
今夜も 母さんと 祈ります

戦時中は、無事で帰ってきて欲しいという、「銃後を守る」家族ならしごく当たり前に持つ感情すら吐露することが許されなかった。「武運長久」という一見勇ましい言葉は、戦地からの生還を願う家族や知人友人の切実な祈りの婉曲表現であることはよく知られている。

そのことを思えば、この歌は、終戦直後の、人間の人間らしい感情がそこかしこに溢れかえっている時代の空気を、如実に映しとっている曲だといえる。

 自分はこの歌を乳児だったころの娘の子守唄のひとつにしていたが、歌うたびに、同じように胸にせまるものがあった。また、戦争という時代背景は抜きにして、単に「ふるきよき時代の日本の、田園や里山での穏やかな暮らしを描いた歌」としてとらえても、じつに美しい歌だと思う。