2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

いまさら

母親は、自分がこれまでの人生で一番長く濃密に関わった女性だから、自分の女性観がこの人によって形づくられているのは否定のしようがない。同じように考えると、自分の娘の男性観は、きっと自分によって形づくられてしまうのだろう。だからといって、今さ…

独りの時間

二三ヶ月に一回ほど、たった一人で酒を飲む。飲むといっても昼間は喫茶メニューになる店で、ハイボールと簡単なつまみで数百円のセットを注文するといったしごく安上がりなものだが、自分とじっくり対話ができる、こういう時間はしみじみと愉しい。 突然妙な…

なみだ恋

さすがに今はそれほどでもないが、自分は子どものころ八代亜紀が大好きだった。なぜ好きだったのかうまく説明できないが(もっとも好きというのは常にうまく説明できないものではあるが)、ひとことで言えばこの人に「大人の女性」の象徴を見ていたのだろう…

5月の別れ

井上陽水は、自分の中では作家の安倍公房とイメージが重なる部分がある。その感じはなんとも形容しづらいが、あえて意味不明な説明を試みれば、圧倒的な芸術的才能と、知性とユーモアが両立しているところ、とでもいおうか。この「5月の別れ」という歌は、自…

体罰と暴行の間(下)

かつて体罰が当然のこととして受け止められていた組織や社会に属し、それなりの成果や効果を挙げた経験がある人たちの中には、体罰の効用を説く人が少ならずいる。そういう人の気持ちは、そういう社会で過ごした経験がある自分にはよくわかる。しかしその成…

体罰と暴行の間(中)

日本体育大学が、「反体罰・反暴力宣言」というものを発表した。http://www.nittai.ac.jp/important/post_143.html 自分の常識では、大学の体育会運動部(日体大の場合は学友会)は学年間序列とそれを維持するための体罰の巣窟であり、その総本山ともいえる…

体罰と暴行の間(上)

よく利用する地域の公営プールで、高校の水泳部らしき集団が練習をしていた。顧問の先生は三十歳前後の男の先生で、ときおり生徒を軽くビート版でこづいたりしていたが、それを見ながら、ああいうのまで体罰だと糾弾されかねない世の中になりつつあり、現場…

製造の神秘

コカ・コーラや、ケンタッキーフライドチキンの製法は、特許ではなく「企業秘密」になっている。コカコーラの製法は、世界で5人ぐらいしか知らず、この5人は決して飛行機に同乗しないのだという。(いわずもがなだが、全員が死ぬとコカ・コーラがつくれな…

酒井順子

酒井順子の著作は、途中で読むのをやめたものを含めれば十数冊は読んでいると思うし、繰り返し読んだものも多い。存命の現代作家で、これほど自分が読み込んでいる書き手はいない。この人の書くものには、洞察の深さと、論旨の明確さと、ユーモアがある。ひ…

にもかかわらず、笑う

アルフォンス・デーケンという、長く日本の大学で「死生学」という学問を教えてきた神学者がいる。この人によると、ドイツではユーモアとは「どんな困難な状況にもかかわらず笑う」ことをいうらしい。困難な状況とは、自分の外的な環境だったり、内的な心境…

マーケットインとプロダクトアウト

マーケットインとプロダクトアウトという言葉を並べると、この言葉の出自がもともとマーケティング用語だからある意味当たり前ではあるのだが、前者を「需要に合わせた柔軟性のある商品の開発と供給」と高く評価するのに対し、後者を「手前勝手につくった愚…

蜘蛛の巣

妻子の要望により、バルコニーに巣食った蜘蛛を殺虫剤と丸めた新聞紙で退治する。4階のバルコニーに巣を張ったところで獲物がちゃんとかかるのか素人目には訝しく思えるところだが、巣を観察すると中身を吸いとられた虫の抜け殻が点在しており、ちゃんと巣…

誤解・誤読・誤訳

武という字は「戈(ほこ)を止める」つまり戦いの象徴である「剣」を事前抑止するという意味だと巷間いわれている。ふと、本当にそうなのかと思い、漢和辞典(白川静著「字統」)を立ち読みしてみると、戈は確かに「剣」だが止は「足跡」を意味し、武とは兵…

自転車

先週の日曜日、娘とふたりで某国営公園の中をサイクリングした。 きれいに舗装された二本の自転車みちは、芝生の中央分離帯を挟んで行き違う一方通行になっているのだが、その芝生の上で、一台の二人乗り自転車(後ろに乗っている人もペダルを漕ぐ、胴体が長…

理由

理由という言葉には、・現象のしくみ、成り立ち ・現象の存在意義、目的という、二通りの概念がある。例えば「雨が降る理由」は、「地上の水が蒸発して冷やされて落ちてくるから」という現象のしくみから説明するルートと「生き物の水分を供給するため」とい…

虚と実(下)

「人生とは、総合格闘技かプロレスか」ということを以前考えたことがある。人生の真相は、弱肉強食の適者生存つまりは総合格闘技であり、戦いを装った約束事の世界であるプロレスは偽りの世界であり人生の真相たりえない、というのが一般的な認識だろうと思…

虚と実(上)

自分の母親が、テレビにうつっているプロテニスの試合を見ながら「テニスは人のいないところに打ちあうズルいスポーツだからいやだ」といったのを聞いたことがある。 そういったあと、「それにひきかえ、剣道は正々堂々と相手に立ち向かっていくからいい」と…