独りの時間

二三ヶ月に一回ほど、たった一人で酒を飲む。飲むといっても昼間は喫茶メニューになる店で、ハイボールと簡単なつまみで数百円のセットを注文するといったしごく安上がりなものだが、自分とじっくり対話ができる、こういう時間はしみじみと愉しい。

 突然妙なことを言うようだが、孤独が好きな人間などこの世にはいない。はた目孤独を好むように見える人は、自分の心や頭の中に、いろいろな人格や多角的な価値観をもっているので、対話をするのに必ずしも他者を必要としないだけだ。自分はそのたぐいの人間だが、もし自分の中に対話する相手がいなくなる日が来たら、早晩、外の世界に話し相手を捜しに出かけることだろう。

 逆にいえば、いつも他人とつるんだり、こすれ合うことばかり欲している人は、自分の中に対話に値する相手を持っていない、ということになるが、社交性という人間の重要な徳目は、孤独でいることの寂寥感に耐えられない可憐な心情からしか生まれないともいえるだろう。

 結婚し、子供が産まれ、家族ができてから、いつも誰かしらが自分の身のまわりにいる生活になった。それで孤独の楽しみが損なわれたかというと事態はまったく逆で、いつも誰かがまわりにいるからこそ、まれに訪れる独りの深みがいや増して、以前よりも濃密な悦びを感受することができるようになった気がする。ただ、もしかするとこれは自分一人だけの現象なのかもしれないから、それを理由に結婚をすすめようとは思わない。