マーケットインとプロダクトアウト

 マーケットインとプロダクトアウトという言葉を並べると、この言葉の出自がもともとマーケティング用語だからある意味当たり前ではあるのだが、前者を「需要に合わせた柔軟性のある商品の開発と供給」と高く評価するのに対し、後者を「手前勝手につくった愚にもつかない商品を押し売りする頑迷さ」と低く評価する、といったきらいがある。

 しかし、歴史に残るベストセラーや大ヒット商品が、マーケットインだった試しはほとんど無いように思う。歴史に残るプロダクトはすぐれた才能や感性の産物であることが多く、そういった能力を備えている人物は、市場のニーズや大衆のご要望などクソくらえと自覚的・無自覚的を問わず思っている変人である例が多いからだ。

フォードの創業者である、ヘンリーフォードに「消費者のニーズなんか聞いても意味がない。もっとはやく走る馬車が欲しいというだけだろうから」という意味の言葉がある。商品開発者のとるべき姿勢は、消費者のニーズを探りそれに合わせた商品をつくるのではなく、消費者が自分でも気づかなかったニーズに目覚めさせる商品をつくることだ、とはスティーブ・ジョブスの言葉だが、それを実行するには大きく深い才能と能力が要る。

だから、多くの凡才は、消費者や市場のニーズを探ることに血眼になり、それが頭のいい振る舞いであるかのような風潮もあるのだが、消費者や市場という外の世界にばかり目をぎょろつかせるのではなく、まごうことなき今を生きる現代人である自分自身が、何を考えて何を望んでいるのか、いっちょ腰を据えて考え込んでみることも、決して無駄ではないように思う。