メリットとベネフィット

 メリットとベネフィットの違いは、たとえば新幹線のメリットが「東京から大阪まで三時間足らずで着く」であるとすれば、そのベネフィットは「すぐに会いたい人に会える」ということである。

消費者の頭の中で、メリットとベネフィットが結び付かないことがある。そこで、広告やセールスプロモーションの出番になるのだが、このことがわかっていない人が広告主にも代理店にもけっこういる。かれらは商品やサービスのメリットをユーザに刷り込むことが自分たちの役割だと思っているのだ。

生活者は商品やサービスの「メリット」など知ったことではない。それらが自分たちに、どういう快楽や、興奮や、便利や、金銭的利益を与えてくれるのかを知りたいだけだ。

だから新幹線のベネフィットが「会いたい人にすぐ会える」だとすれば、対峙すべき「競合」は、飛行機などの交通機関ではなく、テレビ電話やスカイプのたぐいかもしれないのだ。

この「ベネフィット」指向はマーケティングの教条としては今や常識だが、現場ではたいてい忘れ去られている。または関係者は意図的に目をそらしていると言ってもいい。なぜなら、「新幹線」のマーケティングにおいて「通信」まで視野に入れると考慮すべき変数が多くなりすぎて手に負えなくなるからだ。

いうまでもなく、「手におえない」などという業界人の泣き言など、生活者にとっては、これも「知ったことではない」。どん欲なまでにベネフィット享受を目指している生活者たちは、業界人たちが線引きした製品カテゴリの境界線など、なんの造作もなく飛び越えていく。

マーケティングの目的が、エンドユーザへのベネフィット提供なのか、他社とのメリット競争に勝ち抜くことなのかによって、なされるアウトプットは違ってくる。これは、いくら注意してもし過ぎることはない話だが、「当たり前すぎてかえって軽んじられてしまう」話でもある。