スタンドプレーの末路

 小池百合子都知事は、当初11月に予定していた豊洲移転を延期する理由を、「9回予定している地下水モニタリングの最終回が移転後の来年1月になっているから」としていた。

彼女は「移転延期の大英断」で都庁官僚に正義の鉄槌を下したあと、来年1月の最終回のモニタリングで及第したのち、「安全が確認された」というお墨付きを得て移転するビジョンだった。

小池氏の移転延期の判断は、移転に利害がある関係者の猛烈な反発を引き起こしたが、その潮目が変えたのが「地下空洞」問題である。

この発覚は小池氏にとって強烈な追い風となり、「関係者」は意気消沈、勢いづいた小池氏は大穴を空けた「犯人」捜しと並行して、はた目には逆向きにも見える「地下が空洞でも安全上問題はない」というお墨付きを得るためのプロジェクトを発足させた。

あとは、第8回、第9回のモニタリングをクリアし、「地下空洞」も「ウソはついてたけど、安全上問題ないんだから結果オーライでした」でしのぎ、めでたく移転へとこぎ着ける・・・はずだった。

しかし、この小池氏のビジョンは、9月末の第8回のモニタリングで、環境基準を上回るベンゼンヒ素が検出されたことによって崩壊することになる。

これによって、彼女が自ら掲げた「移転を許可する条件」は崩壊したのである。こうなっては小池氏にはもう「盛り土問題」の犯人捜し以外、何もすることがない。

ここに至って、豊洲移転問題は、

豊洲移転を諦め、築地にいつづける。
豊洲移転を諦め、別の場所を探す。
・追加工事で豊洲の「地下」を何とかする
・何もかも目をつぶって豊洲に移転する

の4択しか残されていない。それぞれすべてに難題が貼りついており、いずれもイバラの道だ。

今、小池氏は、移転を許可することも、かといって中止することもできず、進退窮まっている。進退窮まった腹立ち紛れと、何もすることがない暇つぶしに、過去の「責任者」の吊し上げにいそしんでいる。

「大年増で厚化粧」と罵られた腹いせに似非マッチョ老人をなぶりものにして時間稼ぎをするのもいいが、いまさら「責任者」を吊し上げたところで、何が解決するものでもない。「戦犯」の追及など、事態が収着してからじっくりやればいい。戦争中に戦犯さがしをしている暇はない。

小池氏は、豊洲問題において、都庁や都議会や市場関係者をそっくり敵に回した。これは事態の中心で、丸裸で立っているに等しい。彼女の 身内に味方はおらず、味方は全て外にいる。

「外にいる味方」とは要するに、正義の味方気取りの「外部有識者」と、ドタバタ劇を愉しんでいる野次馬のことだ。

今後、問題のあまりの面倒くささに「外部有識者」が体よく逃げ出し、野次馬が見物に飽き飽きした後、1人ぼっちで残された小池氏は、カオスの極みに達したこの事態の、どこに落としどころを見出すつもりなのだろうか。

自分には、彼女には事態を収拾するなんの腹案も無いように見える。彼女はこれから、辺野古問題におけるかつての鳩山氏のように、スタンドプレーの末路として、「信用喪失」という代償を払うことになるかもしれない。

現実的には、巨額の投資をした豊洲移転が話ごと消滅することはないだろうが、その最終ゴールにむけて、あくまで「いいかっこ」をしながらどうツジツマを合わせていくか、小池氏は今必死に考えているにちがいない。(たぶん)

なお、この「豊洲問題」は、地産地消、ネット通販、産地直送の世の中で、そもそも「中央卸売市場」にどういう存在意義があるのかを、あらためて考える契機になるやもしれない。