2017-01-01から1年間の記事一覧

神の存在証明

小林秀雄の「常識について」というデカルト論の中に、「(デカルトは)神の存在についても証明して見せた」という一節がある。デカルトが神の存在をどういう論理で証明して見せたのかには触れず、こんな言葉がただポンと投げ出されるように置かれている。神…

人工知能がもたらす未来

実力の上回る人工知能で練習して人間同士の試合に挑む棋士は、体力の上回る男と練習して女同士の戦いに挑むスポーツ選手と似ている。しかし、そういう訓練の仕方が可能な女子スポーツはおしなべて人気がないように、そんなことをしている将棋界や囲碁界もい…

敵に回る本能

人間の体は簡単に病気やけがをする程度に弱く、人間の心は容易に悩み苦しむ程度に弱い。「強い」というのはいつかは過ぎ去るいっときの状態に過ぎず、生れてから死ぬまで強くあり続ける人間などいないし、ついでにいえば、弱くあり続ける人間も少ない。「疾…

宮崎駿の復帰

2013年に引退宣言をした宮崎駿が復帰のために始動している様子を追ったテレビ番組(「終わらない人 宮崎駿」)を再放送で視た。彼は復帰作品をコンピュータグラフィックス(CG)で作ろうとして、若手の技能者とチームを組んで試作を繰り返したが満足に…

お約束に学ぶ

権力を確立するまでは信用第一で頑張るが、 ひとたび権力を得てしまえば信用なんてどうでもよくなり、 傲慢と専横のうちに人心は離ていき、 いつしか権力の座から引き下ろされる。 これが「権力は腐敗する」の定型プロセスである。 衆知を集めて独裁者の地位…

四季のある人生

「年をとるたびに一年が短く感じられるようになっていく」と多くの人が口にするが、その理由は「一年の心理的な長さは、年齢の逆数に比例する」という「ジャネの法則」でひとまずは説明できると思う。ジャネの法則とは、たとえば5才の子供の1年の長さは一生…

残った町並み

京都の町並み。太平洋戦争末期、日本の都市という都市が空爆に遭った中、京都市街が終戦までほぼ無傷だったのは、原爆を落とす最有力候補地として温存されていたからだ。京都が選択肢から外された最終的な理由は、日本降伏後の占領政策をスムーズに行うため…

哲学への道

京都の「哲学の道」を歩く。西田幾多郎や田辺元といった京都学派が「好んで歩き」「思索にふけった」ことからこの名前がついたらしい。哲学をなんとなく高尚で有難いものとしかイメージできない人たちがつけたのだろう。無邪気なものである。哲学を浮世離れ…

未熟者が牛耳る世界

米国のトランプ氏は支持率低迷、日本の安倍氏は森友学園と、ともに抱えた国内問題から目を逸らす手管として、海外課題(シリアでの生物化学兵器、北朝鮮における核兵器開発)が利用されている。「生物化学兵器の利用」や「核兵器の開発」は、誰が見ても「良…

井の頭公園

外国人観光客をたくさん見る。海外旅行の貴重な一日を、名のある観光地めぐりではなく、こういう場所でのんびり過ごすことを選ぶのは、よほど旅慣れた人たちではないか。弁財天。つい出来心で読んでしまった絵馬の文面に「●●●(ある作家)が人の嫌がることを…

自信と自己肯定感

「自信」は社会的に価値があるとされる能力や実績や貢献によって得られるが、「自己肯定感」は親や共同体から無条件に与えられたり自分の内面の工夫で醸成するものだ。自分に「自信」があっても「自己肯定感」は希薄な人がいるし、逆もある。 実績や能力や社…

死に至る病

小林秀雄によると、中原中也の死因は「孤独病」だそうだ。もちろん、そんな病名が医学的にあるわけではなく、たぶんに文学的なものだが、そんな架空の病名がピッタリくるケースが、自分の知る限りひとつある。2008年の飯島愛の死である。 彼女の死因は結局は…

夢の不沈艦

会社というものはたとえて言えば札幌雪まつりの雪像のようなもので、それが外形上どんな偉容を誇っていても、季節が変わればたちまち溶けてしまう。外部環境の変化のもとでは、でっかいこと、かたいことなど、何の頼りにもならない。 巨大な雪像をくり抜けば…

4月11日のこと

帰りの電車がトラブルで動かなくなり、他路線の振り替え輸送を利用し大回りして帰る。いつもより二時間ほど余計に時間をかけてやっと着いた駅で、誰かの吐いたゲロを踏む。改札口で、振り替え輸送を利用したからSuicaの入口記録がない旨を駅員さんに告げると…

米軍のシリア攻撃に想う

アサド政権は、スンニ派のイスラム国と対峙しているし、イランとも仲がいいからシーア派とも思われているが、実際は「アラウィ派」というクリスマスを祝い輪廻転生(イスラムは否定)を信じている、土着の山岳信仰のグループである。 スンニ派が大多数を占め…

その場で腹に落ちてこそ

「言われてみれば当たり前だが、言われてみないと気づかない」話のことを「コロンブスの卵」と称することがある。実はこういう話は「言われなくてもわかっていること」や「言われてもわからないこと」と比べるとあまり多くない。「言われなくてもわかってい…

「政治家」とは何か

安倍氏は拉致問題を存分に政治利用したが、当初の動機はそれなりに純粋だった。小池氏も豊洲移転問題をはじめから政治利用しようと企んだわけではなく、当初はそれなりの義憤に駆られていたのだろう。なんとなれば政界という魔境には、ピュアな初心を歪ませ…

笑いが生まれる場所について

茂木健一郎氏がSNSで以下の発言をし、各方面から反発を招いた。 「トランプやバノンは無茶苦茶だが、SNLを始めとするレイトショーでコメディアンたちが徹底抗戦し、視聴者数もうなぎのぼりの様子に胸が熱くなる。一方、日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空…

断片の集積

あらすじを覚えていない小説でも、あるシーンだけが妙に記憶に刻まれていることがある。自分は、かつて読んだ「ねじまき鳥クロニクル」の、捕らえられた日本人スパイが全身の皮を剥がれ性器を切り取られ惨殺されるシーンをいやに鮮明に憶えているが、このシ…

無意味な努力の累積

「人は凡そ明瞭な苦痛の為に自殺することはできない。繰り返さざるを得ない名附けようもない無意味な努力の累積から来る単調に堪えられないで死ぬのだ」これは小林秀雄の「Xへの手紙」という文章の中にある言葉だが、自分はこの洞察は真実だと思う。かの電通…

3月11日のこと

本棚がいっぱいになったので、過去数年にわたって購読してきた月刊誌(文芸春秋)を捨てることにした。その前に、いい記事があれば拾い読みをし、保管しておきたいものがあれば、切り抜いておくことにした。 一冊ずつ目を通していく中で、自分がこれまでその…

「学力」に関する覚え書き

「世帯年収が高い家庭や、学校外教育支出が多い家庭の子どもほど学力が高い」いう議論を近頃よく見聞きする。外形上は確かにそうなのだろうか、因果関係でいうと、野球に打ち込んだ経験がある親を持つ子供は野球に入りやすいように、重負担の勉強経験者の親…

夫婦の姓についての覚え書き

イヴァンカ・トランプさんは、クシュナーさんという夫がいるのに元の「トランプ」姓をそのまま名乗っている。一方、ヒラリー・クリントンさんは、夫ビルの「クリントン」姓をつかっている。このあたりの、欧米の既婚女性における姓の選択の基準がどこにある…

言葉の継承について

普通は漢字にするような言葉でもひらがなで表記している文章をたまに見る。「日本人たるもの、やまと言葉はひらがなで書くのが本当だ」みたいなこだわりがあるのか知らないが、読みにくいうえに幼稚な自己満足にひたっている印象を受ける。そういう自分にも…

忘れられない言葉

妙に忘れることができない言葉というものが自分にはいくつかあり、その一つに、小泉信三著「海軍主計大尉小泉信吉」の中にある、「あの時死ぬべき子でした」というものがある。この言葉は、小泉信三の長男・信吉が、海軍中尉として出撃した南太平洋で戦死し…

東芝が陥った煉獄

ウェスチングハウスが米国の原発の完成を放棄して撤退すると、発注元である電力会社に8000億円からの違約金が発生するしくみらしい。そしてその負担は、親である東芝がまるごとかぶることになる。 つまり今東芝は、「進むも地獄、退くも地獄」の渦中にいる。…

あるアイドルの「出家」

宗教というものは貨幣と同じで、その価値を信じている周囲に感化されて自分も信ずるようになる。つまり今渦中の清水富美加嬢の周りにはそういう人が一定数いて彼女はどっぷりその感化を受けたということになる。北朝鮮の国民は自国ウォンの価値など信じてい…

教えられることと教えられないこと

短歌や俳句を作る人が書く散文は、たいてい見事だ。これは、文章が上手になるには短歌や俳句をつくるのが早道なのか、もともとよい文章の書き手は短歌か俳句に集まるのか、おそらく両方なんだろう。詩歌の本質は、緻密な観察と、深い洞察と、的確な言葉選び…

生きる意味とは

人間は、社会の中でお互いに「生きる意味」を与え合っているのであって、その枠組みからはずれた途端、人間は生きる意味を喪失する。「人間の生きる意味は何か」といった命題に直面している人間は、いま孤独であるのが通常だが、そんな不毛な場所でいくら考…

2017年1月26日のこと

静岡への出張時、時間が空いたので地元の美術館に行く。静岡駅で素晴らしい富士山の絵(和田英作「早春」)を掲げた広告を見かけ、実物を見にいくことにした。美術館は静岡近代美術館という。 静岡駅から歩ける距離だと判ったが、道に迷うのもいやなのでバス…