ミケランジェロ「ピエタ」

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 小林秀雄は、ミケランジェロの最高傑作は「ピエタ」だと言っていた記憶があるが、自分が見た範囲でもこの説に賛成である。

ピエタ」には、「人間はこれ以上の彫刻を作ることはできないだろう」という頂上感というか、行きつくところまで行きついた感が漂っている。そもそも、これは本当に人間が彫ったのだろうか。世に「神品」という言葉があるが、この作品に冠してこそふさわしいと思う。

ミケランジェロの大理石彫刻には、独特の皮膚の質感がある。本物の人間の皮膚のような、どこかたるんだような、どこか張り切っているような、まなましい感じが在る。

このような質感は、ギリシャ・ローマの彫刻にもあまり見られないし、ロダンの大理石彫刻にも無い。ミケランジェロしか使用が許されていないヤスリやワックスのようなものがあったわけではなく、おそらくこの質感は、表面を研磨して出すものではなくて、充実した中身からしか滲み出てこない性質のものだろう。

ただ、ミケランジェロは身体の造形は物凄いが、頭部は画一的な印象がある。おそらくかれは、人間の顔には本当の関心を持っていなかったのではないか。「ピエタ」でのマリアの顔も、「悲しみを押し殺している」と言えば言えるのかもしれないが、「無表情」といっていいと思う。

もっとも、やり直しや積み重ねが効かない大理石彫刻で人間の表情を出すのはとてもむずかしい、という事情もあったのかもしれないが、ミケランジェロならやってできないことはないだろうから、やはり関心が薄かった、ということではないだろうか。