広告写真より

広告写真は、たくさん撮る中から選りすぐりの一点が採用されるため、いい写真が多い。

絵というものは、モチーフと「一字一句」そっくりに書こうとするとモチーフの奴隷になり、いい作品にならない。コピーを作りたいのなら、写真に撮ればいいだけの話だ。実物とそっくりに描ける腕前を誇るほど、絵の描き手にとって、虚しいことは無い。

上手いにせよ、下手にせよ、写真以上あるいは写真の埒外のものが表現できなくては、人間が手を動かして作品をつくる意味がない。これは自分の勝手な説ではなくて、ミケランジェロが言っている。

彼はモチーフに似せて彫刻を彫ろうとする弟子に向かって、「1000年後にこの作品を見る人は、モデルと照らし合わせたりしないよ」という意味のことを言ったという。

画作とは実物とそっくりに描くテストではないし、鑑賞とは「答え合わせ」ではない。鑑賞者が、「これはきっと実物とそっくりに描けているんだろうな」と思ってしまう絵ほど、つまらないものはない。