大樹が滅びる時
企業を一本の樹に例えれば、社員はその葉である。葉は穏やかな平時には木を成長させる養分を作り出す場所だが、一朝暴風が吹き荒れれば、風力のまともな受け手になり、枝や幹すらも折ってしまう。非常時に経営者が行う人員削減は、風の抵抗を極力減らすための「葉の伐採」になぞらえることができる。
だからといって「暴風下では葉の伐採を行うことが一様に許される」とは言えない。「風の強さ」と「葉の抵抗力」を比較考量して、葉を伐採することの可否と量を検討しなければならない。幹が折れてしまうほどの風力ならば伐採はやむを得ないし、まだ耐えきれる程度ならば安易な刈り取りは許されない。
ただ、一本の樹を襲う災禍は「風」だけではない。風は一時の吹きまわしだが、「温度」の変化に直面するとどんな大樹でも葉も枝も幹も根も死に絶えてしまう。企業が恐れるべきは一過性の「風」的なものではなく、見た目の印象は静かだじわじわと息の根を止める「温度」的なものだ。
温度の変化は、「とりあえず葉っぱを刈ってやり過ごす」という対処法が通用しない。「もう生きていられないから諦める」とか「生きていられる温度の場所に移植する」といった根本的な対策が要る。
今回のコロナ禍が、ワクチンや治療薬ができるまでの一時的な「風」なのか、人間たちが永続的に直面し続ける「温度」なのかはまだ本当には判らないが、「これは風ではなく温度である」とやや悲観的に考えていた方が、見込み違いがあってもケガが少なくてすむと思う。