第66回全日本剣道選手権大会

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 剣道はするのは嫌いだったけど、観るのは好きなんだよな、というわけで、今年も全日本選手権に観戦に行った。

それにしても、日本武道館の観客席で食べるシウマイ弁当は、なぜこんなに美味いのだろうか。こうなると、ビールも飲みたいところだが、剣道の試合では、それは憚られる。場内に特に飲酒はNGの表示はないが、常識的に、剣道の試合を観戦しながら飲酒している人はいない。そういえば、プロ野球の試合や、大相撲観戦では酒を飲んでもいいのに、なぜ剣道はダメなんだろう。プロスポーツは飲酒はよくて、アマチュアスポーツはダメなんだろうか。

では、プロバスケットや、プロ卓球、プロバレーボールの試合は飲酒してもいいのか。多分ダメなような気がする。ではそこの線引きはどこにあるのか。

結局は、「大衆娯楽として浸透しているか否か」または「選手が莫大な報酬を得ているかどうか」という、極めてあやふやな条件になりそうだが。

ただ、バレーボールやバスケットボールはどうかしらないが、剣道のような動きが速い競技は、飲酒時のような生理状態では、選手の動きが追えず、よって観戦の楽しみは半減すると思う。

武道館の外では、剣道雑誌「剣道日本」が無料で配布されていた。「剣道日本」は一度休刊(廃刊)になり、編集員はベースボールマガジン社に移って「剣道JAPAN」という新しい雑誌を創刊し何号か書店販売したはずだが、今度は、「株式会社剣道日本」という会社を立ち上げ、「剣道日本」を復刊したようだ。

この新生剣道日本は、ネット販売限定らしいが、無料で配布するとは、よほど余ってしまったのだろうか。無料の実物配布、という手法は確かにプロモーション効果は高いが、裏腹に、ブランド毀損のリスクも抱えている。一度無料で手にした商品は、お金を出して買う気が失せる危険性があるからだ。

自分は月刊誌を定期購読する資力はないので、お役には立てないが、頑張ってほしいと思う。

上掲の絵は、決勝戦が終わり、閉会式が始まるのを待っている一選手を、三階席からスケッチした。

すぐれた剣道選手の立ち姿は例外なく美しい。力みがない精妙なバランスで、何か危機が迫れば即座に反応できるような立ち方である。

立ち姿だけではなく、歩き方にも惚れ惚れする。立ち姿や歩き方の美しさを磨くには、激しい俊敏な動作をしながら重心を一定に保つ修練が要る。外形の美しさを内側の構造物の堅牢さが支えている。

全日本剣道選手権の出場者の多くが、二十代前半から三十代前半の青年たちだが、彼らは自分たちの所作の美しさにはおそらく無頓着であるし、頓着した途端に美は霧散する。

なお、選手たちは整列してから二十分ぐらい待たされていたが、場内アナウンスによると入賞選手のドーピング検査が長引いているからだという。

剣道の大会でドーピング検査とはご時世というほかないが、もし陽性反応が出たら、当然ながら、優勝や入賞は取り消すことになるのだろうが、その後味の悪さは大変なものだろう。だったら、大会当日の朝に、出場者全員を対象に、一斉にドーピング検査を受けるようにした方がいいのではないだろうか。

オリンピックや他競技の世界選手権もドーピング検査は入賞者のみを対象にしている理由は、その手続きの煩雑さからなるべく対象者を絞りたいところにあるのだろうが、剣道の場合は、まったくやらないか、事前に全員やるか、のどちらかにした方がいいと思う。 (なぜ、と訊かれれば合理的理由を述べることができないのではあるが)

個人的に今回の注目していたのは大阪代表の村上雷多である。彼は神奈川の桐蔭学園から筑波大学を卒業し、現在は大阪体育大学剣道部の監督を務めているが、警察剣道の団体戦で連覇中の大阪府警のメンバーが大挙して参加した大阪府予選会を通過した、唯一の教員である。

身長は180センチを優に超え、横幅もプロレスラーのような体躯が、驚異的なスピードで動く。この人の試合の動画をYouTubeでたくさん見てきたが、まるで格闘ゲームを達人が操作しているような動きである。

過去には中央大学からトヨタ自動車に進んだ中山睦友、大阪体育大学から大阪府警に進んだ世界選手権の日本代表の大将石田利也の系譜を継ぐ、巨漢・怪物型の選手である。

彼は二回勝って、三回戦で、過去三回優勝している警視庁の内村良一と対戦し、延長の余し面で敗れたが、その堂々たる剣風は、まるで高校生に稽古をつけている大家の貫禄であった。もっともっと戦っている姿を観たかった選手だった。

普段目にすることがほぼ無い、人間の力強い動きや美しい静けさを、たくさん見ることができた。