バカという方がバカだ

「あいつはバカだ」という発言は、ほぼ「あいつが嫌いだ」と同義である。

「嫌い」という絶対的感情を、「バカ」という相対的な評価にすり替えて、自分をごまかし、相手をあざむこうとしているのであり、そういう欺瞞に気づかないこと自体、発言者が「バカ」であることの証しである。

他者への評価は、山登りにおける下界の景観に似ており、自分より下にいる人間の「バカさ加減」はよく見えるが、自分より上にいる人間がどのくらいすぐれているかは容易に識ることはできない。かくして人は、多かれ少なかれ、自分以外の人間は全員バカだと、どこかで思い込んでいる。

「バカという方がバカだ」という言葉には、おそらくそういう寓意が含まれている。また、他者をバカ扱いにしておとしめれば、相対的に自分がリコウに浮上すると思い込んでいる無邪気さから、発言者の精神年齢の程度も測ることができるし、そうしないと自己肯定ができないほどの根深い劣等感に苦しんでいる人だともいえる。