ルーベンスの子供の絵

f:id:kirinta8183:20200606135022j:plain


ルーベンスが、自分の娘クララを描いた絵は、作者の対象への愛情が溢れている。絵を見る喜びとは、ひとつは、それを描いているときの作者の心情を追体験するところにあり、この絵は見る人を、作者と同じ幸福な気分に導いてくれる。

ルーベンスの元の絵は、おそらく実際のクララとはかなり違ったものだろう。形状や色彩を追うことで、現物以上のものを表現する、それが芸術家の本来の仕事だから、外形が似ていなくてもちっとも構わない。彼は娘を画布に写し取ろうとしたのではなく、画布の上に、自分の愛情を表現しようとしたのだろうから。

ルーベンスはむろんのこと、このクララも、この世にはいない。けれども、愛情の証は、数百年を経て、今に伝わる。「人生はみじかいが、芸術は永い」という言葉には、きっと、そんな意味も含まれている。