絵と会話

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 人物の絵は、一筆入れるとまるで印象が変わるところが描いていて面白い。風景の絵でも基本は同じなのだが、人物の場合は、それがてきめんで、非常に刺激的だ。

これは、日常会話において、片言隻句でその場の雰囲気が変わってしまうことがあるのに、よく似ている。初めから相手の言うことなど聴く気が無い乱暴な言葉のぶつけ合いは論外だが、お互いが相手の言葉をよく理解し、相手の言葉をきちんと受けて話し合う、通常の人間同士の会話の場合、ひとつひとつの言葉が担うプレゼンスはとても深くて大きい。

また、絵を描いていても、描き足らないことや、描きすぎることがあるように、会話でも「しゃべり足りない」ことや「しゃべりすぎる」ことがある。話すべきことを話し切らないと意は十全に伝わらないし、話すべきではないことを話すと、信頼は色褪せ、場は崩壊する。

つまりは、筆のひとつひとつ、言葉のひとつひとつに、それを表出させる「意味」を持たせることがとても重要なのだ。しかし、今一本引くこの線に何の意味があるか、今しゃべろうとしているこの言葉にどんな役割があるかを、その場で精確に判じるのはとても難しい。

難しい、と言って終わってしまうのもなんだが、難しいのだから仕方がない。そして、それができる人が上手い絵描きであり、手練れの社交家なのだろう。