木刀

f:id:kirinta8183:20190102154517j:plain

 以前はあまりそういう意識なかったのだが、剣道では単純な打突力が思いのほか重要だということに、最近気づいた。

これはボクシングにおいてパンチ力が必要だ、というのと同じで、当たり前といえば当たり前だが、当たる外れるに関係なく、「打突する力」というものが相手に与えるインパクトは大きい。ちなみに、剣道の打突力は対人関係における熱意や迫力と似た位置づけにある。

「昭和の剣豪」といわれた故・中倉清範士九段は、剣道が強くなる方法を問う弟子に、「会社や家庭などの人間関係を良くするといい」と答えた。剣道が強くなるための稽古法や心がまえを問うた弟子はこの回答に面喰ったらしいが、この答は滋養に富み、本質を突いている。

仕事にせよ、趣味にせよ、成果を挙げるには相手をねじ伏せたり、相手の力を削ぎ落すのではなく、相手の力を増幅させ、それを利用し、しかも相手が利用されたことになんの痛痒も感じず、できれば悦びすら感じさせることが理想だと思う。

「よい人間関係」の構築は、相手の力を自分の力の増幅に利用するための前提条件だ。よい人間関係が築ければ、相手と自分が電池の直列接続のにような状態になって、電球はより明るく輝くようになる。中倉範士はそのことを言っているのだと思う。

「剣禅一致」という言葉がある。いったいどういう境地なのだろうか、とても興味がある。自分には、まだ経験したことがない感情や心境がたくさんあり、それは当然愉快なものばかりではないだろうが、そのいくつかは、剣道の稽古を通して味わえるような予感がある。