人を嫌う方程式

 他人は自分の鏡だ。他人に対する好悪は、自分に対する好悪が反映したものだ。他人を嫌うとき、人は他人の中に、自分自身でもっとも嫌悪している自分を見ている。だからその指摘は自分自身に対する指摘でもあるから、指摘された他人から容易に「あなただって同じようなものじゃないですか」という返しを受ける。これは到底耐え得ないほど苦痛な図星であって、そのような打撃を自分に与えてきた相手を恨み、もとより相手の方も打撃を与えてきた自分を恨むのだから、関係の崩壊は決定的で、その修復は容易ではない。だから人は、他人の中に嫌悪する様相を観たとき、それが自分嫌悪の反射心理ではないか、とまず検証する必要がある。(これまで書いた通り、たいがいがそうである)そして、その他者嫌悪や自己嫌悪は、単なる固有の価値観や自分自身の個別的性癖ではなく、人間という生物が等しく持ち合わせている普遍的な心理傾向なのではないか、とまで考えを広げれば、他人を嫌悪するという一見不毛な情動の中にも、豊饒な思考の沃野が広がっていることに気づくことができる。人間は自分の感情から学ばなくてはならない。あらゆる思考の全ての起点は「自分は今何を感じているか」という所にある。