他人という地面

 つらいことや苦しいことがあったら、それを誰かに言ってみるといい。それで何かが解決したり治ったりするわけではないが、少しは荷物の重さを減らすことができる。

人に話すことになぜそういう効果があるかというと、苦しみが出口を失っているときに、他の人というアース線で外へ逃がすことができるからだ。

これは、重たいカバンを持ち上げて運ぶ負担を、キャスターで転がすことによって軽くする工夫に似ている。キャスターで転がしても荷物自体の重さには変わりはないが、その負担を地面と分け合うことで、運ぶ人は感じる重さを逃がすことができる。

人間にとって「他の人」とは、足もとから支えてくれる地面のようなものだ。この地面をなくしたら、人は文字通り立っていることができなくなる。「人間は一人では生きられない」という言葉には、たんなるきれいごとを超えた、もっと切実な意味がある。