ロバート・ブルーム「日本婦人像」

バート・ブルームは33歳だった1890年(明治23年)から約2年間日本に滞在し、その間に、水彩、パステル、油彩、ペン画と、様々な技法を自在に使い分けつつ、当時の日本の風物を緻密な筆致で描いた。

元号はすでに明治であり、政治体制や経済活動においては、加速度的に近代化が進んでいたが、当時の市井の人々の暮らしには徳川時代の空気が未だ濃厚に残っており、彼の作品からは、その暮らしの風景に、彼が高度な美しさを感じ、深い愛着を持っていたことがわかる。対象の中にある美の感受や、対象への愛情なくして、こういう絵は描けるものではないからだ。

渡辺京二は「逝きし世の面影」で、江戸時代を一つの輝かしい「文明」と観じ、それは明治維新を境にして徐々に滅び去っていったのだ、と説く。ロバート・ブルームが日本滞在中に描いたのは、江戸文明の光彩の残滓が照らしていた日本社会、つまりは江戸文明臨終の情景であった。

今年は明治150年だそうだが、かつてロバート・ブルームが絵筆で描写し、現代で渡辺京二が文字で照射した「江戸文明」は、現代の日本のどこかに残っているのだろうか。そこかしこに残っているような気もするし、まるで消え失せてしまったような気もする。

しかし、ブルームが描くかつての日本の姿に接し、心の中で何かしら動くものがあれば、その人の中には幾ばくかの「文明」の残滓があると言っていいのではないだろうか。