83歳の地図

 操り人形のはずの社長が最近気に喰わないのでクビにしようとしたが、社長の解任は取締役会の専任事項なので渋々それに諮ったら、床の間のお飾りだった創業家マネキン人形代わりのはずの社外取締役の反対を食らい、面目をまるつぶれにされたので腹立ち紛れにちゃぶ台をひっくり返し、今は大混乱の周囲を尻目に「俺の存在の大きさを思い知ったか」とさぞや痛快な気分だろうが、

いっときのカタルシスが去った後は、伝説の経営者もひとたび権力の座から降りれば単なる一個の老体に過ぎなくなることを、ご自身これから身に染みて知ることになる。それはともかく、権力闘争は古今東西人間ドラマの主題になりつづけてきたが、ジジイが演じると薄ぎたない茶番にしか見えなくなるのはどうしたことか。

いずれにせよ、この経営陣の内紛はセブン&アイにとってマイナスにしか働かず、こういう様相をまのあたりにすると、「組織で出世したジジイは権力ボケしてるし、渡り鳥のプロ経営者は無責任なんだから、いっそ会社の経営も人工知能にさせりゃあスッキリすんじゃんねww」とか短絡する人間が出てそうで、これはこれで怖い。

「盗んだバイクで走り出した」15歳は「行き先もわからなかった」ようだが、ちゃぶ台をひっくりかえした83歳も、記者会見の後、棺桶以外に自分がどこに行けばいいのかわからなかったのではないだろうか。

人間は社会に出ることによって大人になり、権力を握ることによって子供にもどり、それを剥奪されることによって無に還る。豊臣秀吉は自分の人生を「難波の夢」と総括したが、いま鈴木翁も同じ境地に遊ばれていることを祈る。

セブン&アイ 後任人選難航も | 2016年4月8日(金) - Yahoo!ニュース http://news.yahoo.co.jp/pickup/6197145 #Yahooニュース