歴史の射程距離

「賢者は歴史に学ぶ」というが、歴史の教訓というのは往々にしてどこかで聞いたような陳腐な結論であることが多く、大抵、ものの役に立たない。おそらく歴史とは、結果から学ぶものではなく過程を味わうものなのだ。

NHKに「ファミリー・ヒストリー」という有名人の家系を調べて本人に見せる番組があるが、ここで出演者は、自身も知らなかった家族の歴史を、番組の取材スタッフから教えられる。だからといって、取材スタッフは出演者よりその家族について識っているということにはならない。

「ファミリー・ヒストリー」のスタッフは、出演者の家族史に関する情報を集める役回りに過ぎない。彼らは一つの家族を調べおおせた後は、また別の家族の情報集めに取りかかるだけである。情報から価値を産むのは、それに対する愛着や愛惜の念が必要だ。

過去の事実や情報について愛惜の念を持つのは、いうほどたやすいことではない。家族の歴史に愛着を持つことができるのは、基本的にはその家族だけだ。格別な想像力を持たない通常の人間が、真に歴史を知ることができるのは、ごく狭い範囲のごく短い期間に限られるのかもしれない。