惨めな下僕

「中国の傘下に入るぐらいなら、アメリカの植民地になった方がマシだ」という安倍総理の強い意思表示により、不参加が決定したようです。(ほぼ事実)

どういう先の見立てがあるのか知らないが、こういうところでつまらない意地をはったり、アメリカと中国を両天秤にかける強かさがないところが幼稚なのだ。アメリカの「親」ともいうべき英国や「弟」というべきオーストラリアすら参加しているのに、どこまで「アメリカ様」の下僕なんだ、と思う。

先進各国は、巨大ではあるが、まだまだ経済的には新興国にすぎない中国を、盟主として信用しきっているわけではない。ただ現実に、かの国の国力(人口・経済力・軍事力)は無視できないレベルに達しているし、アメリカのパワーダウンも著しい状況下、保険をかけるつもりの様子見で参加しているのだ。

TPPはアメリカを盟主に換えた「大東亜共栄圏」めいているし、ユーラシア共同体は旧ソ連の枠組みに近似している。EU・米・露各陣営がそれぞれ新しいブロック経済圏を構築しようとしている中、唯一孤立した経済大国・中国の起死回生の世界戦略 がAIIBだと位置づけられよう。

認めざるを得ないのは、EUやユーラシア共同体やTPPが、つまるところは、かつての帝国主義的縄張り争いなのに比して、AIIBの地域や民族や文化や歴史を横断した構想の巨大さである。こういったスケール感は中国ならではで、悔しいかな、今の日本には逆立ちしてもマネできない。

アメリカが世界の盟主だったころは、WTOなどの地球横断的な枠組みが活きていたが、かの国がその座から降りてからは、こと経済においては国際協調などどこ吹く風の帝国主義闘争に入りつつある。

こういった状況下で、「銀行をハブにした経済コネクションをつくり、その中で陰に陽に君臨する」というアイデアは斬新だし、すぐれている。だからこそ、多くの先進各国も「乗って」きたのだろう。

現況の中国の国家体制は、様々な問題を抱えているが、その政治指導部には、自分の頭で考えた世界戦略がある。「反中・反韓・親米」を国是にしたまま思考停止している日本と比較すると、かの国の政治指導者は隔絶した「大人」である。

TPPに参加してアメリカの古臭い帝国主義で植民地化されたり、誰が敵か味方かわからない中東の内戦にノコノコと首を突っ込んだりすることに、いったいどういう国益があるのか、自分にはさっぱりわからない。

その理由がひとえに「敗戦国の下僕根性」にあるのならば、こんなに悲惨なことはないし、そこから離れられない固陋な人々が、自らを「愛国者」と位置づけている現況にいたっては、まるで喜劇の景色である。

安倍首相が近年アジア外交に異常なまでの執念を見せ、大金をばらまいてきたのは、一にも二にも対中国包囲網を近隣諸国と構築することが狙いだったのだが、その結末の、自国と北朝鮮を除いたアジア諸国が根こそぎAIIBに参加するという事態を、外交的敗北と呼ばずしてなんと呼べばいいのだろうか。

日本が金にあかして自陣に取り込もうとしたアジア諸国は、日本の「援助」をニコニコ顔で受け取りつつ、国益をシビアにかんがみた結論として、AIIBへの参加を戦略的に選択した。おそらく安倍首相の子供じみた目には、この行動は「裏切り」と映っているに違いない。繰り返すが、そういう心性こそが、絶望的なまでに幼稚かつ未熟なのだ。

北朝鮮と日本は、幼稚で狭量な近視眼的な指導者が唯我独尊の政治指導を行っているという意味では軌を一にしている。そういう意味では、両国が「アジアのはみだしっ子」になった結末もむべなるかなという気がするが、もう、そんな他人事のように語ってはいられない。ここは自分の国なのだ。

アジアのはみご同士、いっそ北朝鮮と同盟関係を結んだらどうか。そうしたら少なくとも拉致被害者は還ってくるぞ・・・そんなやけくそなことを言いたくなるほど、安倍政権は何から何までめちゃくちゃなことをしているように、自分には観える。

アメリカは、韓国・オーストラリア・日本のそれぞれと、二国間軍事同盟を結んでいる。そのうち日本だけがAIIBに参加していないという理由は、「かつて日本はアメリカと戦争をし、300万人が死に、アメリカの恐ろしさを骨の髄まで味わったから」というところ以外に見つけることは難しい。

つまり日本は、アメリカにかつて国として半殺しの目に遭い、そのトラウマから従僕に成り下がることから逃れられなくなったのだ。

その従僕たる位置に甘んじつづけ、どこまでもアメリカ様に追従することをよしとする人々が自己を愛国者だと思い込んでいる風景は、皮肉というよりすでに喜劇の領域である。

AIIB参加申請 51の国と地域に
http://nhk.jp/N4IZ4D4y