マーケティングの罠

 マクドナルドが業績低迷にあえいでいる原因は、結局のところ「マーケティング」に走りすぎたからではないだろうか。

いわゆるマーケティングの4Pのうちなんといっても最重要なのが「product(商品力)」のはずだが、それを四分の一の地位に押しこめ、「出店戦略」やら「価格改訂」やら「販促プロモーション」やら本来二の次三の次のことばかりに頭をこねくりまわした報いがきたように見える。

個人的にはマクドナルドはとっくに「100円マック」で長時間ねばる場所に過ぎなくなっていた。かねてから「自分のような客ばかりだったら、マックもつぶれるだろうな」と思っていた。

確固たる商品力があればこそ、出店戦略や価格戦略やプロモーション戦略がはじめて意味をもつ。逆に言えば、商品力がなければ残りの三つはほとんど何の役にも立たない。商品力のなさを残りの三つでカバーすることはほぼ不可能だ。それほど商品力の占める影響は大きい。

「商品力が基本です」なんてことは、今さら力んで言うまでもない自明のことだが、かように「マーケティング・マインド」を持つことは両刃のツルギになりうるということは知っておいたほうがいいかもしれない。魅力のない商品を売る仕組みをいかに考えだすか、そこが世のマーケッターの腕の見せどころのようにとらえるむきがあるが、そこからすでに本末転倒が始まっているかもしれないのだ。

もしかするとマクドナルドの「マーケッター」が本当に優秀ならば、正体不明の肉を使っているとか、名ばかり店長が過労死するまでサービス残業をしているとか大量のネガティブニュースが日々世間にばら撒かれていた時点で最大級の危機感を募らせ、しかるべき方策を講じたにちがいない。

内実がブラック企業で従業員のモチベーションが低く、どんな肉を食わされるか知れたものではなく、味も凡庸で、イスやテーブルは回転率を良くするようにわざと使いにくく作っている。そんな品質の低い飲食店に客を呼ぶためにマーケティングが出来ることは、ほとんど無いにひとしい。

一方で「ラーメン二郎」というラーメン屋群がある。このラーメン屋は出店計画はいきあたりばったりで(おそらく)、宣伝活動もまったくせず(聞いたことがない)、価格戦略もほぼなされた形跡がなく(おそらく)、それでいて客は1時間も寒風や酷暑の中を行列し10分で食べ終えてさっさと外に出る。

マクドナルドにあってラーメン二郎にないものはものは恐らくマーケティングマインドであり、ラーメン二郎にあってマクドナルドにないものはひとえに商品力である。

だからマーケティングなどは不要なのだ、といいたいわけではない。ラーメン二郎マーケティングをやりだしたらとてつもない怪物ラーメン屋群になる、ということがいいたいだけだ。しかし「マーケティングなど糞くらえだ」という姿勢が市場ニーズに応えているとすれば、これも立派な一種の(逆説的)マーケティングではある。