ある自戒

 カントは「永遠平和のために」の中で、「国家間は戦争状態が通常で、平和は非常な努力のもとにしか現れない」みたいなことを言っているが、人間関係も恐らく同じで、「仲が悪い」のが常態であり「仲が良い」というのは異常、といって語弊があれば、奇跡的なことなのだ。

だから「仲が良い」人間関係は、それを維持するために非常な努力が必要なのだが、たいていの人は、仲が良くなるや気を許し、気を許すとわがままになり、あるいは隠すのが礼儀の部分を無思慮にさらけ出すようになり、結果お互いに嫌悪感を生じさせ、いつしか心が離れていき、そして別れがやって来る。

これは恋愛関係、友人関係、親子関係を問わずあらゆる人間関係に共通のセオリーだ。離婚した芸能人が「価値観のズレが生じた」的な身ぎれいな釈明をするが、人間同士の価値観はズレているのが常態なのだからこの表現は不正確で、これをもう少し実態に即して言い改めると、ちがう価値観を容認できないほど相手が大嫌いになった、ということなのだ。   

つくずく、人間同士の「仲が良い」というのは奇跡的なことだ。だからそういう関係をひとつでも手に入れていたら、それを必死で守る努力をお互いがつづけなくてはならないのだろう。