ありふれた話

「子育て」と胸をはって言えるようなことを自分はしていないが、「こんな人間になってほしい」という塑像は、かなり自分の中ではっきりしている。

ひとつは、「自己肯定感のある人間になってほしい」ということ。大人になるにしたがい自分が否定される目にあうことが増えていくから、子どものうちに自分を肯定する気持ちを、精神の底にしっかりと根づかせておかないと、いずれ身も心ももたなくなる。

もうひとつは、独立心のある人間になってほしいということ。すくなくとも、いつまでも親の近くに住みたがるような人間にはなってほしくない。年頃になったら、さっさと物理的にも、心理的にも、親からどんどん離れていくような人間になってほしい。

このふたつを実現するためには、子どものうちに親からの愛情をたっぷりと受けつづける必要がある。親から注入される愛情が飽和状態に達すれば、子どもは自然と親から離れていくだろうから。

親から離れた後は、自分の人生を自分で選択して歩んでほしい。

自分で選んだ人生にせよ、親から押しつけられる人生にせよ、人生は、大なり小なりうまくいかないことには変わりはない。うまくいかないとき、それが自分の選んだ人生ならば踏ん張りもきく。

逆に、親から押しつけられた人生ならば、うまくいかなくなったときに、きっとそれを親のせいにする。それは親のせいにする子ども自身にとっても、せいにされる親にとっても、たいへん不幸なことであるから。