せつなさを殺せない

吉川晃司はもともと超高校級の水球選手で、当時学生水球界で圧倒的な強さを誇っていた日体大の特待生推薦を蹴って芸能界入りをしたという伝説を持つフィジカルエリートだった。

つまりこの人の泳力は尋常ではないものがあるのなのだが、当時全盛だった芸能人水泳大会のたぐいに出ているのを見たことがない。彼にしてみれば自分は本格派のスポーツ選手だから、あんな半ちくなお遊戯会に出られるかという矜持があったのだろう。

この人も一種の万能の天才児で、コンサートなどであれだけでたらめな体の動きをさせながら、いちいちサマになっているのは、持って生まれた超絶的な運動センスの賜物としか言いようがない。

ステージ上で振付皆無のでたらめな動きをする仲間(?)に、吉川と同学年の尾崎豊がいるが、この二人は音楽センスの上ではともに天才だが、運動センス、ダンスセンスは雲泥の違いだと言わざるをえない。

妙な節回しで歌うせいで気づきにくいのだが、この人は声がよく、歌の表現力も相当なもので、それはアコースティックバージョンで聞くとよくわかる。デビューは男性アイドルの位置づけだったが、この人を初めて見たとき、そのあまりのカッコよさに自分は小林旭の再来を見、必ず大スターになると直感した。

正直にいって、その後の彼は、自分が直感したほどの大スターにはなっていないが、芸能界で独自の地位と世界を築いている稀有なタレントといえよう。蛇足だが、この人は独自のものを見る視点と思考力を持っており、しゃべらせるととても深いコメントをするという意味ではサッカー選手の三浦カズに似ている気がする。