場に宿る神

出張がえりの新幹線の中で、乗務員や車内販売の女性が車両から出て行くときに振り返って一礼するのを見て、あの一礼は何に向かってしているのだろうかと考えた。

もちろん、乗客に向かってしているのが主だろうが、おそらく「場」に対する敬意も微量に含まれているのではないか。それは、野球選手がグラウンドに向かって、水泳選手がプールに向かって、剣道の選手が道場に向かって、そこへ入るときと出ていくときに一礼するのと通底するものかもしれない。

区画された「場」には神が宿るという思想は日本人にとって古来親しいものであり、かつて「職場」もその例外ではなかったが、この神聖な感性が失われて久しい。その美しい残滓を新幹線の中で見た、とは言い過ぎだろうか。