歩いて帰ろう

 よく知られている話だと思うが、この「歩いて帰ろう」という曲は、ポンキッキーズというかつてあった朝の子供番組のオープニングソングで、この曲が流れるのは、ちょうど自分が出勤する時間帯だった。

嘘でごまかして 過ごしてしまえば
頼みもしないのに 同じような朝が来る

という歌詞が、自分には、身にしみて、身にしみてしようがなかった。自分がいつも同じような朝をうんざりするような気分で迎えているのは、まさに嘘でごまかして過ごしているからだ、という風に思った。

 会社で過ごした不本意な時間を取り戻すように、むさぼるような夜更かしをした。夜は時間が止まったようで、永遠につづくかのように思われたが、それは無残な錯覚で、やはり必ず朝は来る。
 
 寝不足の不快感と、出勤しなければならない強圧感に責め立てられながら家を出る。そういう「同じような朝」を何度も重ねるうちに、この歌が大きらいになり、朝はポンキッキーズはぜったいに見ないように、慎重にチャンネルをあわせるようになった。

 今でもこの曲を聴くと、何度も重ねたあの憂鬱な朝を思い出す。なぜこんな歌が子供番組のオープニングソングなんだろう。当時抱いた疑問の答えは、今に至るまで自分にはわからない。

急ぐ人に操られ 言いたいことは胸の中
寄り道なんかしてたら 置いてかれるよ すぐに

 これからの人生において、君にとっての「急ぐ人」は親だったり、学校の先生だったり、会社の上司だったりするだろう。しかし、君は、走る街から目をあげて、空にはのんびり流れている雲があるのことをけっして忘れてはならない。走るばかりが能じゃない。たまには歩いて帰ることも必要なんだよ。そういうメッセージがこめられていたのかもしれない。