花火

 ある芸能人が「椎名林檎は秀才だが、aikoは天才だ」と、ほぼ同時期に活躍していた二人を比較して述べているのを読んだことがある。自分はこの言葉に共感を覚える。そんなにすごいのかといえば、やっぱりすごい。この人が、自身の作曲の方法を語るのを聞いたことがある。ピアノの前にすわり、どこかのキーをでたらめに押すと、その音をきっかけにして、音が溢れだすのだという。

 松本清張も似たようなことを言っていて、彼の場合は、何のアイデアも構想もなく、ただじっと机に座っているのだという。そうすれば小説が出てくる。どれだけ我慢して机に座っていられるか、その忍耐力がカギなのだという。これは、方法と呼ぶにはあんまりで、ようするに何も語ったことにはならない。強いていえば、「自分は天才である」と言っているだけのことだろう。

 あくまで自説だが、名曲には心を突き刺すようなインパクトを残すフレーズが必ず一つある。この「花火」の場合は、「疲れてるんならやめれば」というところである(と思う)。自分は疲れているときにこのフレーズを思い出し、それまでしていたことを中断したことが何度もある。当たり前のことを当たり前の言葉で記すとき、その景観が当たり前でなくなることがある。どうすればそういう言葉を吐くことができるのか、その方法はおそらく誰も知らない。